読書

「具体と抽象 ~世界が変わって見える知性のしくみ~」を読んでみた


概要(雑メモ)

  • 「抽象 = わかりにくい」「具体 = わかりやすい」はとんでもなく大きな誤解
    • 具体は通常「目に見える」実態と直結し、抽象は「目に見えない」もの
      • 具体的な表現は、解釈の自由度が低い。つまり人による解釈の違いがほとんどない。
      • 抽象的な表現は、解釈の自由度が高く、人によって解釈が大きく異なる場合がある。

ポイント

具体と抽象の行き来を意識することで、間違いなく世界が変わって見える。

抽象化とは?

一言で言うと、「枝葉を切り捨てて幹を見る」こと。具体的にいうと、複数の事業の間に法則を見つける「パターン認識」の能力とも言える。

ポイント

抽象度の高い概念は見える人にしか見えません。そのため、状況と相手に応じてちょうど良い抽象度でコミュニケーションを行うことが重要である。

抽象化するためのツール

抽象化するためのツールとして「シンプルな図解」があげられる。もう少し具体的にいうと、一つ一つの図形が「個性」を極力排して丸や三角にしてしまい、それらがどのような関係になっているのかという相対的な繋がりのみを表現することが図解の目的です。

相対的

あるものが他のものとの関係において成り立つ、または他との比較によって成り立つさまを意味します。つまり、絶対的な基準や不動のものさしではなく、比較対象や状況によって意味や価値が変わることを指します。

より具体的に言うと、相対的な評価は、他の受験生との比較で合否が決まる入試のように、集団内での位置によって評価される場合に使われます。
一方、絶対的な評価は、資格試験のように、あらかじめ定められた基準に達しているかどうかで評価される場合に使われます。

具体化とは?

解釈の自由度が低く、人による解釈の違いがほとんどないことを表す。

どうやって「具体」と「抽象」を行き来するのか?

具体と抽象の行き来の具体例として、「たとえ話の上手い人」が挙げられる。

たとえ話の上手い人は「"具体 → 抽象 → 具体"という往復運動による翻訳」に長けている人のことを言います。

上手いたとえ話の条件

  1. たとえの対象が誰にでもわかりやすい身近で具体的なテーマ(スポーツやテレビ番組など)になっている
  2. 説明しようとしている対象と①との共通点が抽象化され、「過不足なく」表現されている

またおおよその仕事は、「抽象から具体」への変換作業である。

具体と抽象は常にセットで全体を見て、それらを連携させた上で計画と実行のバランスをとっていくことが重要です。抽象度の高い上位目標があるため、いちいち具体レベルの「失敗」を気にしていては立ち直るのが難しく、あくまで上位目的の実現手段の1つであることを考えると、失敗をあまり引きずる必要はありません。

なぜ「抽象化」を制するものは思考を制すといっても過言ではないのか?

1を聞いて10を知る

抽象化の最大のメリットは、複数のものを共通の特徴を以ってグルーピングして「同じ」とみなすことで、1つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になる事です。

また具体的な応用としての発想方法がアナロジーです。アナロジーとは類推のことで、異なる世界と世界の間に類似点を見つけて理解したり、新しいアイディアを発想したりするための思考法を意味します。身の回りの「一見遠い世界のもの」をいかに抽象レベルで結びつけられるかが、創造的な発想力の根本といえます。(遠くからアイディアを借りてくる手法)

かいつまんで話せるのは何故か?

抽象化して話せる人は、「要するに何なのか?」をまとめて話すことができます。膨大な情報を目にしても、常にそれらの個別事象の間から「構造」を抽出し、何らかのメッセージを読み取ろうとすることを考えるからです
対して具体レベルのみで考えている人は、500ページの本を3分で説明してほしいというと、「時間がないので3章だけ」や「各章のはじめの部分だけを抜き出す」という選択肢しか考えられません。

ポイント

膨大な情報を目の前にしたとき、その内容をさまざまな抽象レベルで理解しておくこと。

議論がかみ合わないのは何故か?

議論に必要な重要な視点は、ここでも"具体と抽象"です。ここでいう具体と抽象とは、「目に見えるもの(こと)と目に見えないもの(こと)」「表層的事実と本質」といった言葉に置き換えられます。このような視点で、つまり「抽象度のレベル」が合っていない状態で議論している(ことに両者が気づいていない)ために、かみ合わない議論が後を絶ちません。


また「この人は話がコロコロ変わるな」と思っているなら、実は話を聞いている側に問題がある可能性があります。具体レベルでしか相手の言うことを捉えてない人は、少しでも言うことが変わると「心変わり」と捉えてしまいます。
例として、前日に「A社に行ってくれ」を上司に言われ、翌日に「やっぱりB社だ」と上司が急に言い出した場合を考えます。具体レベルでしか相手の言うことを捉えていない場合、「心変わり」と思うかもしれませんが、実は上司は「重要顧客のフォローが甘くなって満足度が下がっているので、その対策をしたい」と考えており、常に最善の対応を考えていたら、状況の変化によって対応策が変わるのは当然のことです。ここで言いたいのは、抽象度が上がれば上がるほど、本質的な課題に迫っていくのでそう簡単には変化しないということであり、「本質を捉える」とは、表面事象から抽象度の高いメッセージを導き出せるかということを示しています。

「分厚い資料」か「一枚の図」か

具体の世界は量重視であり、抽象の世界は質重視である。

パスカルは友人に出した手紙の最後に「今日は時間がなかったために、このように長い手紙になってしまったことをお許しください」と書いた。
これは「具体の世界のみ」に生きる人には理解できない言葉であり、どこまで「単純化」できるか、これが抽象の世界の全てである。抽象の世界での「単純化」は、対象が複雑であればあるほどよく、それをいかにシンプルにするか、まさに「具体と抽象とのギャップの大きさ」を追求することである。

二者択一と二項対立

抽象レベルで二項対立を捉えている人は、そこに「考える視点」が出てきます。いわば「物事を考えるための方向性や視点」といえます。対して具体レベルで二項対立を捉えている人は、二者択一に見えてしまいます。

哲学、理念、コンセプトの役割とは?

哲学、理念、コンセプトといった抽象概念がもたらす効果は、個別に見ているとバラバラになりがちな具体レベルの事象に「統一感や方向性」を与えることであり、いわばベクトルの役割を果たしています。大きな目標があってはじめて個別のアクションが有機的に繋がり、「個別の無機質な行動」が意義と繋がりを持った生きた行動になっていきます。

「有機的」とは、多くの部分が密接な関連を持ち、全体としてまとまりのある状態を指す言葉です。対して「無機質」とは、生命感や感情が乏しく、冷たく機械的・人工的な印象を与えるさまを言います。

「本末転倒」が起こるメカニズム

例えば、「数値目標」という具体的な情報は、必ずそこに「目的」や「意図」というより抽象度の高い背景情報がセットになって生まれているはずです。具体しか見えていない人は、セットの情報を渡したつもりでも相手は目に見えやすい具体レベルとしての数字の情報しか受け取ってくれません。(抽象とのリンクが切れ、具体レベルの数字のみが一人歩きします)
結果、価格目標を守るために必要な機能を外すなど本末転倒な状況を引き起こします。

抽象化を妨げるものは何か

高い抽象レベルの視点を持っている人ほど、一見異なる事象が「同じ」に見え、抽象度が低い視点の人ほど全てが「違って」見えます。抽象化して考えるためにはまず、「共通点(抽象度の高い共通点)はないか」と考えてみることが重要です。
具体の世界しか見ていない人ほど「あれは自分とは違うから・・・」と考えがちであり、それは大抵の場合「できない理由」になっています。対処法として、多種多様な経験を積むことはもちろんのこと、本を読んだり映画を見たり、芸術を鑑賞することによって実際には経験したことのないことを類似経験することで視野を広げることができます。

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